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第三回 「太陽にほえろ!」

(遥かな道、テナー街道)
先ほどまで、にこにこと笑みを浮かべて好々爺で見守っていた仁鶴師匠が、私の最後の〆のせりふ

「お後がよろしいようで」

を聞くや否や血相を変えた師匠が

「あかんあかん、もっぺんや!」 とは?

私は顔面蒼白、ディレクターも顔面蒼白。
すると師匠はまたあのにこにこ顔に戻りやさしく諭すように語り始めました。

「よかったよ、上手やわ。特に上下(右を向いたり左を向いたりして二人の人物を表すしぐさ)がはっきりしてるし、ちゃ〜んと成りきってたわ。
口跡(しゃべり方)もはっきりしてるし、よう分る。スピード感もあるし、第一、春団冶のニュアンスをよう勉強してるな。
(私自身勉強したつもりもないが、三つ子の魂かな?)
ただ!

「ただ???」 と恐怖感に苛まれる私。

「ただ、上方の落語やないな!」

「ギョエ〜!」

流石は師匠、最初は褒め殺し、最後に息の根止める!
正直私にとっては生涯最悪のお言葉。はっきり言って即死状態でした。

先に言っておきますが、この言葉が今だに生涯最悪の屈辱。

その後、こんな私でも大学時代や社会に出て企業という虎の穴、失礼、魑魅魍魎(ちみもうりょうと読みます。文字変換って凄い!) いや、七転八倒、いや、四面楚歌、まだまだ、地獄の黙示録、何と!ハンバーガーヒルズ、
そこまで会社は嫌いではなかったし結構自由に勝手気まま社員でしたのですが?
師匠の言葉以外の屈辱はありませんでした。

師匠は語りはじめました。

「お後がよろしいようでと言うたでしょ。君、そのせりふ上方落語で聞いたことある?」

「・・・・・・・?」

「上方はそのせりふは言わないよ。江戸落語の決め文句や。高飛車に思うかも知れないけど自分より後のほうがええとは言わん。
当然、後ろになる方が格上やし、三枚目、二枚目、前座、真打という序列はあるんやが、それは落語界の内部のしきたりでお客さんには関係ない。お客さんは自分の好きな噺家が一番やと思てはるし、後ろがええか前がええかはお客さんの判断や。
君、自分の落語に自身無いか?」

「ええ・・・・・・まあ?」

「どないや、どっちや?」 とだんだん語気を荒げる師匠。

「自身あります!」

「よっしゃ!それが上方落語や。けっしておごってるんやないよ、いつも謙虚な姿勢は
大切や。ただし自分をおとしめるような言葉はあかん。自分を好いてくれてる一人のお客さんの為に自信持って一生懸命やらんと。」

なんたる崇高なお言葉でしょう。
落語だけではなく人生そのものの教訓。やはり大物は人格も巨大!
落語という芸、いや芸術を通して人生訓を語る。こうなるともう宗教家ですな。

幼少時代より学校の先生の言葉に耳を貸さず、親の言うことも聴かず、クラブの先輩には反抗するを生業としてきた私ですが、このときの師匠の言葉には圧倒されました。

一言一句がスムーズになんの抵抗もなく心に染み入る。
芸の怖さとはこのこと。尊敬があると素直に耳が、心が、受け入れる。人間、納得ということがどれほど冷静に物事を受け止められるかが体感できました。

師匠は続けます。

「今言うたことは落語という芸のテクニックやね。でも、もっと大切な事は、自分が勝手に決め付けてしまうことが一番いかん事やし人に迷惑をかける」

正直、私はその言葉の意味が瞬時にはわかりませんでした。
なぜ迷惑をかけてるのか、なぜ自分が勝手に決め付けているのかが?
師匠はまたもや優しげな好々爺の顔になりゆっくり語り始めました。

「お後がよろしいようでって、君の後に誰かが演るってなぜ分るの?誰も君が何番目って言ってないでしょ。お後がよろしいようでって言うと君を折角トリ (最終演者のことで大抵は師匠格) に持ってこようとしても出来ないよね。」

正に天の声ですな!
言われて気がつく浅はかさ。赤面の至りでした。

「さ、もっぺん演ろか。ホンマは最後のところだけとりなおしてもええんやが、もっぺん演るほうがきっと上手に出来ると思うよ。今度は〆の言葉、『初天神というばかばかしいお話でございます』でいこか」

2回目の収録です。
やはり師匠が言ったように1回目よりもスムーズに。後で自分の録音を聞いたのですが明らかに落ち着きがある。
1回目のときはお客様の顔なんて全く思い浮かばずただ漠然と客席を想像しながらの噺でしたが、今度はくっきりとお客様の顔が浮かぶ。
となりの女子高の剣道部のキャプテンの和美ちゃん、同校落語研究会の由紀ちゃん、
中学時代の水泳部のマドンナ智子さん、お好み焼き屋のおばちゃんの娘育代ちゃん、
保健室の多摩子先生、ジャズ喫茶のアルバイト佐々木ちゃん等々。 (男の顔なぞ思い浮かぶはずがない!)

師匠曰く
「ええね、ええね、今のん。やっぱり2回目で決まりや。君、彼女の顔思い浮かべてたやろ!」

「なんと仰せられまする殿!滅相も御座りませぬ。浮かぶは殿のお姿のみ!」

とは大嘘!

後日の放送で私の声が電波に乗りました。涙が出るほどの感激!ツワモノ12人の
それぞれの得意ネタが披露されました。
そしてめでたく銀賞?金賞は女子高2年生のカワイ子ちゃん。実はこのカワイ子ちゃんとは高校落語研究会の交流会での顔見知り。
デートを申し込みましたが即座に断られました。蛇足ながら・・・

この一件により校内ではひっぱり凧の人気者。
文化祭はもとより校外での仕事も、いやいやボランティアも増え老人会や自治会、学生会館でのレクレーション、剣道部の合同練習会の後の余興、商店街の催しのアトラクション、くじ引きの受付、結婚式の司会・・なんでやねん!

多忙につき勉学は一時休止状態。多忙でなくとも勉学はず〜〜と休止しておりましたが。
落語こそ神から与えられた賜物とばかりにど〜〜ぷり浸かる毎日。

ある日のこと。

「はて?この目の前にある大きな箱は何ぞ?さては南蛮渡来の音曲からくり。おそらく
越前屋の手代が忘れ置きよったかいな?」

と箱を開けると、
「またもや出たか、音曲妖怪め!」

ひっそり、寂しそうに横たわるサックス。
青春の思い出、かれこれ何十年になるだろう?そんなわけ無い、たった3ヶ月ほどのご無沙汰。
「音がでるのかなあ?」とおもむろに吹いてみるとこれが驚いたことに以前よりも良い音色。
早速レコードに針を落としベニーグッドマンをかけてみると曲はタキシードジャンクション。
その瞬間、私はジャズミュージシャンに・・・・・。

はは〜ん、これは神の啓示!

「サックスの吹ける落語家、落語の出来るミュージシャン、はたまた、落語とジャズが趣味の剣道家でいいんでないの!」
とは神の声。順列組み合わせの世界ですな!

んんん、これはえらいことになりました。

想像するに、夏祭りの余興の折には、神社の庭で剣道の模範試合に臨んだ後、すばやく剣道着と防具を脱ぎ捨て、アロハシャツに着替えて櫓の上で河内音頭の太鼓に合わせてサックスを吹き、櫓を降りるや否や浴衣に着替えて本堂に飛び込み落語を一席、これを繰り返しながら合間を縫ってたこ焼きを食べ、金魚すくいに打ち興じ、カキ氷を食べながら射的を楽しみ、景品のボンタン飴と酢昆布を噛みながらラムネを飲み、また、2回目の模範試合に臨み、サックスを吹いて本堂で落語。
いや〜お疲れお疲れ!
ばたばた貧乏の典型ですな!

しかしこのときに描いた図が、恐ろしいことに、私のこれまでの人生の縮図。

会社員をやりながら夜はミュージシャン。夜のライブの為にわざわざ日帰り出張をし、経費を始末する為と見せかけておいて実はライブの都合。
時には、夕方6時からの剣道練習に臨んでそそくさとシャワーを浴びて8時からのライブに滑り込む。
はたまた、得意先接待の任により夕食会。その日がライブの日だと、2次会は自分がライブをするジャズクラブにお誘いし、私が得意先をエスコートしている間バックトリオでなんとか持ちこたえてもらう。

脱サラをして今の私の仕事は、
ミュージックスクール主催者でサックス講師、楽器商にて楽器屋の大将、ライブ開催日はライブハウスのマスター兼ホール係、ラジオ番組のDJ兼ドラマ作家、ブッキング係兼庶務、事務、経理取り扱い、渉外担当兼清掃及び生ゴミ搬出、家内のお買い物付き添い及び娘のお迎え係。

あな恐ろしや青春の群像!

しかし、考えてみると誰でもこのくらいのことはやっているなと納得。

さて話は戻ってサックス。

レコードに合わせてジェスチャーばかりしているわけにはいかんだろうと奮起するも、どうすりゃいいのよ思案橋♪♪♪ (懐かしいでしょ)

へたな考え休むに似たりと、早速教則本を・・・・。

「初めてのサキソフォン」
「すぐに吹けるポピュラーサックス」
「サキソフォン完全指導」
「サックス名曲集」
「あなたもサックスプレイヤー」
「渡辺貞夫ジャズスタディー」

本屋に行くと数々の教則本があり、選ぶだけで大変な作業。
毎日本屋へ立ち寄り、

「これがいいか?あれがいいか?これは簡単そうだけど表紙のデザインが今ひとつ?これは表紙がカッコいいけど内容が難しそう?これは値段が高いなあ?」

と同じ本を繰り返しパラパラめくる毎日。
刷り込みというのは怖いもの。立ち読みしているだけでおおよそのことが解ってくるではありませんか。
結局買ったのは
「上方落語百選」の旅ネタ編と「月刊スイングジャーナル」

元来、「教」 と言う文字自体に恐怖感を覚える性格ですので、とても教則本など買う気になれずついつい目的外の方向へ気持ちが揺らぎこういうことに・・・・

昔、アメリカのテレビアニメで 「ミーッミーッ!」と叫びながらハイウエイを爆走するダチョウが居ましたがまさにあの様相。

「これではいかぬいかぬ」と思案に暮れながらテレビを見ていますと流れてくるサックスの音。
なんとかっこいい曲なんでしょう!
都会的でもあり正にアーバンフィーリング。その曲は

「太陽にほえろ」のテーマソング。

私と同世代の方ならご存知でしょう、あのアクション刑事物の古典ともいえるテレビドラマ。そのオープニングに流れる名曲です。

実際はソプラノサックスで演奏されているのですが、当時、私はそんなこともお構いなしで

「これぞサックスの魅力!」

とばかりに太陽にほえる毎日。
テーマに流れるアップテンポの曲調から、劇中に流れるバラードまで、それこそ耳コピーで音をさぐりイメージを真似る。
ある程度吹けるようになると細かい部分の音の流れを忘れないようにカタカナと線で書きとめる。
この方法、以外や以外、初心者には抜群の威力を発揮します。
譜面を読むという作業の前に、音を出しメロディーを吹くという基本的な訓練になるだけではなく右脳の活性化に・・・・
音符がない分自分の想像力と創造力にたよるしかない。ね、これってインプロビゼーションそのもの!と私は確信します。

太陽にほえてほえて、まるで凶暴な番犬か警察犬のような日々を送っているときでした。
友人から1本の電話が・・・・・

「大学受験だけど、お前、何処へ行く?」

そう、気がついたときには高校3年の年末を迎えていたのでした。

   次回、第4回 「若者は見た!行く末に襲いかかる甘い罠、安楽な道大好 き人間が描いた夢は現実となり、生涯で一度だけ親父を尊敬した。そのかわり親父のアゴがはずれた!」 をお楽しみに     

長っ!