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「アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズとの大セッション大会」編
第一回/第二回/第三回/第四回/第五回/最終回

「テナータイタン!リトルジャイアント!ジョニーグリフィンとの出逢い」編
第一回/第二回/第三回/第四回/最終回

「遥かな道、テナー街道」編
第一回/第二回/第三回/第四回/第五回

第五回 「スーダラ節」

(遥かな道、テナー街道)
「今までのご恩を感謝すると共に、私、玄人音曲師として身を立てます故・・・・さらば
で御座る〜〜!!!!」
と父に印籠を渡したものの拍子抜け!
何故かと申しますと、普通は親というもの息子から「ミュージシャンに成る」と言われ
て嬉しいはずがない。
先行き不安の権化のようなミュージシャン稼業を賛成とは言わないでしょう。
ところが我が父の場合

「ふーん」の一言。

私自身この話を父に言うと、きっと猛反対だと思っていましたしむしろその反論を
少し期待していたというか座興というか・・・

ところが驚くでもなく叱るでもなく、ましてや話をしようという前向きな態度でもない。
だからと言って後ろ向きでもない。
要するに無反応という態ですな。

「のれんに腕押し」とか「馬耳東風」とか「無味乾燥」というのがありますが、正に我が父それにピッタリの人格。

青春時代の若者の合い言葉に

「親父のようにはなりたくない!」

という、誰しもが一度は感じる多感期の息子が父親に対する反抗があります。
この感情はある意味で成長過程における必然でしょう。
いや、むしろ人として健全に成長している証のような気もしますな。

と言うことは私もその当時、健全だったのかも?なぜ、かも?かは、未だに「ああは
なりたくない」と思っているからですな。
ということは私は50歳を前にして未だに成長過程に在るということ。
嬉しいことですな!若いというのは。(だんだん父に似てきたなあ!)

とにかく「気楽」というものに服を着せると父の姿になりますのでご興味がお有りの方
は想像してください(誰がするかあ!)

というわけで将来の展望を父に言い渡し家を出たのでありました。が、
夜には普段通りに帰宅して、普段そう数多くはない家族団欒に参加をしたのでありま
した。
その席上でも先程来の話は全く無く、「水戸黄門」を観ながら何かに取り憑かれたように納豆をかき回し、画面の悪代官と巨悪旗本とのやりとりにうなずきながら感心して
いた父の姿が印象的でした。

その後も、たまに大阪駅でばったり父と会った時にも誰かと間違えて息子に笑顔でお辞儀をしてから気がつき

「なんや、お前何してんねん?」

と、こっちのセリフを発するような人ですから、将来に対する話し合いなぞ金輪際無しで今を迎えている次第。(クワバラクワバラ)

さて、こうなれば玄人音曲師になるより仕方がない。

例の和歌山でのリハーサルに明け暮れることになったのですが、実はこのバンド
男性ヴォーカル入りのリズム&ブルースバンド。
そう、B,Bキングやオーティスレディング、もっと分かりやすいのは映画「ブルースブ
ラザース」のあの感じ。

はっきり言って驚きました、こういうバンドが有ることが。

それまで、ジャズというジャンルのみに感化され、デキシー、ニューオリンズ、
スイングジャズ、まあせいぜいバップという音楽。
リズム&ブルースという言葉はジャズレコードのライナーノーツで覚えた程度。

どっぷり浸かりましたな!

なんたる躍動感!なんたるカッコ良さ!
シンプルで明快で華やかなリズム&ブルースこそが自分に与えられた音楽だと!

このバンド、結構熱心に練習もし、研究もし、綿密なる打ち合わせの元に完成度を求
めるスタンスで、私が入団したときには既に関西の人気バンド!コンサートやライブ活動も頻繁に行っていた名バンド。

何故、私が「どっぷり」かと申しますと、とにかく楽しいメンバー!

人柄が良いといいますかスタンスが良いといいますか、皆スクエアーな本質的に
生真面目ミュージシャン達。
勿論ライブとなると豹変?しますがそれはステージ上でのパフォーマンス。

これですな人気の秘密は!
やはりどんな音楽でも人となり、人柄が出ます。
人に対する思いやりや、社会の規範、ルール、という枠組みからは逸脱したいのが
普通。
ましてや反骨精神や葛藤、矛盾を辛辣に捕える青春者としてはむしろ不良こそが生の
証、なのですが人間そんなに捨てたもんでもない。
正に性善説ですな。
(会社へ入って社会人を長くやっていると性悪説に変わりましたが?)

そのバンド、知る人ゾ知る、知らん人は知らん!「シンジケートチャプター」

このバンドのリーダー、あの「浪速エクスプレス」の世界に誇る名ベーシスト清水興!

いやあ、つい言ってしまいましたな。
このくだりはあまり深掘りはしません。
何と言っても業界ではスターですので、ナニかがナニになってもナニですので!
「しみっちゃん又遊ぼね!」

スタジオリハーサルはいつも皆真剣。
朝まででも納得行くまで何回でも・・・・と書きますと厳しいようですがこれが実に
和気藹々としてフレンドリー。
何かしら暖かい雰囲気がスタジオ内に充満し、これこそ家族愛のバンド。

なんと言っても先ずはリーダーの「清水興」が人格者!
私のような若輩新参者でも数年来のメンバーのように懇切丁寧暖かく指導鞭撻
してくれましたな。
やはり類は類を呼ぶ、メンバー全員が同じスタンス。

「じゃあ、今の所はテナーでズズ〜とブア〜とやってもらおうか!」

  「えっ?どういう感じで何の音からやればいいのですか?」

「なんでもいいよ、君の好きなようにやってくれれば」

  「いや、でも出来ないですよ」

「大丈夫大丈夫、君のあの泥臭い、汚〜い、スケベ〜なセンスをそのまま出して
くれれば大受け間違いなし!さ、やって!」

  「キーは?」(実はキーもコードも殆ど理解していない)

「適当に合わせてくれればいいよ」

  「じゃ、こんなもんで如何です?ズズズズズ〜、ブオ〜〜、ピーヒャラヒャ〜!」

「イエ〜イ!もう最高!もっともっと!」

  「ビャア〜〜ブァヴァ〜ボア〜ズルズルズズズ〜ヒョヒョ〜!」

「イエーイ!最高最高!イケイケ〜!」

するとどうでしょう、こんな事を二、三回もやっているとちゃあんと形になってくるでは
ありませんか。
正にシンジケートチャプターマジック。

このバンド、音楽の第一義は「ノリ」と「勢い」と「楽しさ」

学びましたな音楽というものを。
反面、臆したり躊躇したり恥ずかしがったりするとメンバーが厳しい眼差しでにらみ
つける。

エンターテイメントの専門学校のようなもの。
昔、何かの本で読んだことがありましたが、スイングジャズバンドのリーダー
「キャブキャロウェイ」
の言葉に同じようなものが、

「吹けないなら踊れ!出来ないなら唄え!」

神の言葉ですな。

さて、翌日が初ライブ。
場所は大阪梅田の今は無きポピュラーミュージックの殿堂「バーボンハウス」
上田正樹、憂歌団をはじめそうそうたるバンドが夜毎しのぎを削った巣窟。

流石に緊張しました。
なんせ、初舞台が名門ライブハウス。
ましてや店外のスケジュール看板を見るときら星の如くのミュージシャン、グループ
ばかり。
当然、清水興率いるこのシンジケートチャプターもスターバンド。
その一員、いや、新人として初参加ですからそりゃもうドキドキハラハラ。

こんなときはバンドのメンバーが緊張をほぐしてくれたりバカ話で盛り上げてくれたり
するものですが、そのバカ話で皆を抱腹絶倒させているのは何を隠そう私自身。
その時、楽屋内は演芸場と化していましたな。

そうこうしているうちに出番がやってまいりました。

「スタンバイ御願いしま〜す!」
と進行係が楽屋へ。
客席からは何やらざわざわと話声や笑い声。
気になってそっとステージ袖からのぞくと・・・・・

「超満員!!!」

なんと立ち見まで出るほどの大盛況。
このバンドの人気ぶりを初めて痛感させられました。

「ではご紹介しましょう!シンジケートチャプター!」

「イエーイ!」
と客席がどっと沸く!

派手なドラミングに合わせてメンバーが一人ずつステージに上がってゆく。
ステージに立つや楽器をさも振り回す様にガンガン弾きならす。
私の順番です。
おもいきってステージ上に・・・・・
するとどうでしょう客席から
「イッペイ〜!イエーイ!やれやれ!吹け吹け!イケ〜!」
の声援が。
見ればクラスメイト達が大挙してかぶりつきに陣取って声援を!

こういうときは嬉しいというよりも頭の中が「真っ白」になるものです。
「真っ白」ということは曲もコードも仕掛けも打ち合わせも何もかも吹っ飛んだ状態。

頼りになるのは両隣で吹いているアルトサックスとトロンボーンの音だけ。
耳は「マンモスダンボ」になってはいるのですがいっこうに何も聞こえない。
聞こえてくるのは

「ヤレヤレ〜!イッペイ〜!やったれえ〜!吹け〜!言わしたれえ〜!」

の怒声というか罵声というか?

そのやんやの声援に私以外のメンバー全員が満面に笑みというか大笑いの体で
ノリノリブルースをギンギンに演奏。

3管ホーンセクションの一員ながら私だけが吹いていない状態。

「うぬ〜!謀ったなこ奴ら!」

どうりでおかしいとは思いました。
楽屋で打ち合わせも何もなし。譜面も進行表も無し。

私の馬鹿話を聞いては笑っているようなフリをして実は今日初舞台の私の茫然自失
の姿を思い浮かべて笑っていたのでは?と・・・・・

そのときです、ヴォーカルの”シンちゃん”が叫びました。

「ヘイ!テナーサックス、イッペイ!レッツゴー!!!」

なんと!ソロを吹けと・・・!

いったい今やっているこの曲が何なのか、どこまで進行しているのか、ここは何処
なのか、私は誰なのか、首からぶらさがっているこの楽器は何なのか?

しかし、この状態の時に私の生涯の座右の銘 
「まあいいか」 
が天から降ってきたのです。

一歩前に進みマイクにサックスのベルを突っ込むようにして取り憑かれたように

「パッパラパッパッパ〜〜!」っとくりゃ、

「ズズズズズ〜ピーヒャラ〜!」っと〜。


その瞬間、客席は総立ち状態でやんやの喝采!
バンドのメンバーは大爆笑狂喜乱舞七転八倒しながらも正確に曲を進行している。
そこへもってきて周りの照明が落とされスポットライトが私に集中しておまけに真っ赤
な色に変わり、まるで私自身が燃え上がっているような演出。

バンドのメンバーからは
「それいけやれいけ〜止まるな〜吹け〜アホ〜ボケ〜吹け吹け〜〜!!!!」

皆さんこのノリお分かりでしょうか。
関西のノリ、大阪のノリ、吉本のノリとはこういうものです。

私自身はいたって大まじめ。
殆どサックスのマウスピースをネックまで丸ごと飲み込んだウワバミ状態。
実際、音が出てたのか出てないのか分らない。
だって耳がふさがる、
ちょうど新幹線でトンネルに入った瞬間、または高層ビルのエレベーターで上がる時、飛行機の離陸直後のように・・・・・

ようやくソロから解放されたときにはクラっと貧血状態、ちょうど剣道で大上段から
大きく振りかぶられた竹刀が無抵抗のままで私の脳天に直撃したときのよう。
(よくあったのでそういうことには慣れてましたが)

一曲目がようやく終わりました、が、観客はおさまらない。
逆に火に油が注がれたように・・・・

ヴォーカルのシンちゃんが近づいてきて耳元で大きな声を張り上げる、

「次も頼むで〜!」

何?次の曲ってどんな曲ですか?
問い返す間もなくドラムスのカウントが・・・・・

「ワン、ツー、ワンツースリー!」

このときの後遺症でしょう、後の会社員時代に前歯3本差し歯になりました。
たまたま教えていた生徒さんに歯医者がおりまして安う〜〜〜く入れてもらいまし
たが。ラッキー!

演奏が終わり楽屋へ戻ったときには抜け殻のように。セミの抜け殻の気持ちがひし
ひしと解りました。

無言で座っているとリーダーが

「よかったがな!ええがな〜!それそれ、それや!そのいきや!それがイッペイや!」

・・・・わしゃ曲馬団か?・・・・・

「あ、そうそう、明日京都やから頼むで!ほんで明後日和歌山城で野外コンサート、
その次はコンテスト、その足でまたここや!きばってや!」

楽屋を出たときに思わず口から唄の一節が・・・・・

♪そ〜のうちな〜んとか♪ 

♪な〜〜るだ〜ろおおおお〜〜〜うっとくらあ♪



   次回 第六回 「涙の連絡船」 B面「桂春団治 浪速恋しぐれ」 
                                     をお楽しみに!