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「アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズとの大セッション大会」編
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第三回 「イペイ、ロバートに電話しろ!」
(アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズとの大セッション大会)

神様アートブレイキーの

「ブルーズを演れ!」

という啓示にも似た命令がくだされた瞬間、思い出したように
次の命令が飛んできました。

「イペイ、ロバートに電話しろ!」

「えっ?」

「奴は今ホテルでテレビジョンをみているはずだから、
この電話番号に電話をして、ここに来いと言え。」

とポケットからなにやら紙くずのようにくしゃくしゃになったメモを私に手渡したのです。

それを見ながら私は、蛇に睨まれた蛙のように電話をしました。その時点では
「ロバート」なる人物が誰なのか全く考えもせず、ただ電話の呼び出し音を黙って
聞いていました。間もなく聞こえてきたのは、

「イエス」

という少しくぐもった高い声。


「ロバート?」

「イエス!あんたどなた?」

と聞いてきましたので、とりあえず私のフルネームを伝え、私のお得意の
単語だけの英語で用件を伝えました。するとロバートは怪訝な声で

「ダッドに替われ」

と…。

すぐさま私は、夜の森の中で恐ろしげな声を聞いたときの様に電話をそっと置き、
「ダッド」そう、聖なるブレイキー様を呼びに行きました。「ダッド」はしかめっ面で
電話をしながら身振り手振りで何かを説明している様子。

 そして話が終わると彼は席に戻り、再びあの人懐っこい笑顔を見せると、
またもや、


「レッツ!ブルーズ!」

と私たちをけしかける様にステージの方角を指差し、手の甲でちりを
掃きだすようなしぐさも交え、


「ブルーズ!ブルーズ!」

と。

さあ、私たちメンバーは恐る恐る楽器を設えて、客席の目の前の
フラットなステージに並び、お互いを探るような視線を交錯させました。


「ブ、ブルーズて言うてはるからブ、ブルースせなアカンのんとちゃう?」

とコテコテの大阪弁で先ずはドラムスの「奥沢はん」が、彼の愛すべき
おっとりとしたドモり口調ながら、毅然と我々に命令をしてきました。

「ほな、ナウズ・ザ・タイムで」

と私。

通常私たちのバンドは、カウント(ワン、ツー、ワン・ツー・スリー)をフロント楽器の
私が先導をする訳ですが、この時ばかりはドラムスの「奥沢はん」がまるで自分に
課せられた使命のように率先して、2本のスティックをカチカチ合わせながら
リズムを提示してきました。

ところが、余程緊張していたのかリズムが定まらず、それを聞いていた我々の方が
困惑してしまい、とうとう「奥沢はん」の一世一代のカウント業務を私が横取りし、
指を鳴らし始めました。

その時の「奥沢はん」の恥ずかしそうでいながらほっとしたような苦笑いを忘れる事が
出来ず、そのときの顔が今、わたしが彼を懐かしく思い出す時の映像になり、
真夏の酷暑の夕暮れに思い出してはゾッとして涼んでいます。

 「ナウズ・ザ・タイム」の演奏がなんとか始まり、私のテーマ部分の吹奏が
終わり掛けて、アドリブパートに入ろうかと数秒間の間を取っている時でした。

店の階段下のドアが開き、2メートルはあろうかという長身痩せ型の黒人が、
まるで幼稚園の園児が持っている「お道具箱」のように見えるケースをぶら下げて
飛び込んで来たのです。

瞬間私は彼が誰なのか、そして先ほどの電話の怪訝な声の主であることが
分かりました。

そう「ロバート」は
当時、新進気鋭の若手アルトサックスプレイヤー
ロバート・ワトソン!紛れも無くその人でした。

「ワオー!」という私の歓喜驚愕の気持ちを代弁するように声を発したのは
ロバートの方で、先ほど私が直接電話をした相手がロバート・ワトソンであったのかと思うと、感動で目頭が熱くなり、マウスピースが咥えられなくなった事を思い出します。

驚いた事に、「ロバート」は「ダッド」に挨拶をする間も惜しむように例の「お道具箱」から
楽器を取り出し、組み立てながらダッドに近ずいてゆき「ダッド」と短い会話を終え、

チューニングもしないで早速吹き始めるではありませんか。

そして私たちの歓喜驚愕は「ロバートワトソン」の来店直後から数分間、
いや、数十分続くのです。というのは何と!「ロバート」はひとりで来たのでは
無かったのです。後ろに後続部隊が連なっていたのを私は気がつかなかったのです。
あまりの連続歓喜驚愕上気失神状態の為に…。

では次回をおっ楽しみに〜・・・と書くと読者の皆様、並びに

こら〜!なんじゃい!良い所で気を持たすな!早く言え!怒るデ〜しかし!」

と吉本興業所属の歴史に残る亡き某名人漫才師「やっさん」のような紳士的な私の
友人方々からお叱りを受ける事必至でありますので…
えっ?わかったから早く言えって?
了解しました!

2番手は、これも当時、新進気鋭テナーサックスプレイヤーの、

デビッド・シュニッター!

どん尻に控えしはロシアからの亡命トランペッター、
バレリー・ポルマレフ!

「デビッド」は冗談好きらしく、「ダッド」になにやら女性の話を大げさなジェスチャーで
ケラケラ笑いながら説明。しかし、やはり楽器をケースから取り出し臨戦態勢には
入っていました。

トランペッターの「バレリー」は非常に紳士的で、その場に居た店主や従業員、
数名のお客様、そして今まさに演奏中である我々メンバーに深々とおじぎを繰り返し、
握手を求めながら、店内をくまなく巡回していましたが、やはり手にはトランペットを
準備し、3本のピストンをパラパラと押さえながら…。

さあその後、大阪東通り商店街スグのジャズラウンジ「バーボンタイム」が
ニューヨークのジャズメッカに変身したのはこの夜だけではなかったのです…。

 では、(アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズとの大セッション大会)
第四回 「どうして?そんな事までしてくれるの!」をお楽しみに!