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「アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズとの大セッション大会」編
第一回/第二回/第三回/第四回/第五回/最終回

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第一回/第二回/第三回/第四回/最終回

「遥かな道、テナー街道」編
第一回/第二回/第三回/第四回/第五回

第五回 「神様が怒った!」
(アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズとの大セッション大会)

 テープ剥がしも無事終了し、ブレイキーの指に付いたテープの破片も
取り終えたことを見計らっていたアルトサックスのロバートに促され、私は
"黄金のバックリフ隊"と共に、ナウズザタイムのラストテーマを吹き終えました。

とその直後です、終わるが早いか始まるが早いかという瞬間、

「ドドーン、ダーン、ダダダダダ、ザ〜〜〜!」

猛烈なロール(ドラムスのテクニックの一つで、プレイヤーの股間にある
スネアードラムをスティックの微小な小刻みで叩く連続打音)が店内に
響きわたりました。

これぞあの有名な「アートブレイキー、ナイヤガラの滝ドラミング!」
その音圧たるや、目の前に滝壷があり、水煙としぶきが聴く者の体をびっしょりと
濡らす様な勢い!

「うううわわわわああああ〜〜!!!」

と後ずさりし、どんどん背中の壁に吸い込まれるようにへばりついていき、背中で
壁を突き破るのではないかというくらいに離れていくのは、我等がドラムスの
「奥沢はん」。

「ラタタターン、ラタタターン、ラタタ・ラタタ・ラタタターン!」

とパレードの行進曲の前奏のようなリズムに変わった途端!
3人のフロント陣が寸分の乱れも無く一斉に管を鳴らし始めました。
そう、曲は「ブルースマーチ」目の前1メートル以内で

「アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズのブルースマーチ」

が演奏されるのです。

生涯、この瞬間の感動を忘れることは出来ません。
われわれ、日本のアマチュアともいうべき青年達の前で、まるでレコーディングか
コンサートで演奏するかのような一糸乱れぬプレイを、皆、真剣に
演ってくれるのです。

生きた教則本!触れるミュージックビデオのようなもの。その時ふと周りに目をやると、
なんと!店には満員のお客。そういえば店のオーナーはブレイキー到着直後から
ひっきりなしに電話をかけていたので、知らせを聞き、どんどん人が
集まってきたのでしょう。

やんやの喝采の中、我々も変わるがわる参加し、およそ2時間あまりセッションが
続きました。その間、ブレイキー一家は疲れを知らぬかの様に吹きまくり、弾きまくり。
神様ブレイキーは、流石にブルースマーチと何かしらのスタンダートナンバー2曲に
参加し、後は

「お前達で楽しめ!」

とばかりにコーナーのソファー席に座り、周りの客達と談笑。

夜中の3時を過ぎた頃、

「そろそろホテルに戻ろうか」

と立ち上がり、ブレイキーは財布を出すではありませんか。

「ハウマッチ?」

の声に仰天したのはマスター。なんとブレイキーは飲食代金を支払うというのです。

「とんでも御座いません!本日は御出で頂きました上、演奏までして頂ましたなれば、
失礼ながら心ばかりのギャラなぞご用意させて頂きました。
何卒、ご笑納くださいませ。」

商人の鑑ですな!

と、御殿ブレイキーは

「苦しゅうない!ヨハ満足じゃ。そちの計らいにより楽しめたぞよ!」

と言ったかどうか?
問答の末、マスターはあらかじめ用意してあった紙袋の手土産を
各人に渡し、一件落着。するとブレイキーが、

「イペイ」

と呼ぶではありませんか。
何事かしら?と近付くと

「イペイ、我々は来週、サンケイホールに戻って来たとき、ここでまたセッションを
したいので、お前がセットしておいてくれ。」

この言葉を聞いて、暫く私は意識を失いました。
この感覚、お分かりでしょう。天上の神が私ごときに頼みごとをするとは。
いや命令かも?そんなことよりも、さも友達のよう接してくれる事自体が…

おっと!その時のことを思い出して、また意識が遠のきましたわ!
放心状態の我々に対し、彼等は口々にお世辞の賞賛美辞麗句を述べ、
やんややんやと引き上げて行きました。

 さて、ブレイキーが語っていた2度目の大阪公演の日、私は彼に言われた通りに
「バーボンタイム」でのセッションの準備を終え、サンケイホールでの公演を観に
行きました。

素晴らしい内容で正に歴史の1ページのような演奏。
何度も何度もアンコールに答え、サービス精神に長けた彼等は
グレートミュージシャンの代表。

その感動と裏腹に、終演が近付くにつれ、私は一抹の不安に襲われました。
というのは先日のあの出来事は夢ではなかろうか?今、ステージ上で何百人という
ファンの前で演奏している神たちが、果たしてあの日の彼等と同一人物なのか?

そういえば、あの日の簡単な約束後、誰からもどこからも連絡すら無かったし、
もしや、あれは冗談?挨拶?ジョーク?人間、悪く考えるとどんどん加速していく
物で、まるで広い会場内で自分だけが取り残され、ともすれば周りのお客たちも、
ステージ上のブレイキーたちも私のことを失笑しているようにも感じ、恐怖感さへ
覚えました。

しかしそこは生来の楽天家、ノー天気な私、「ま、ええか!」の短い納得と
自己満足で、楽屋口でサインを求めるべく列に並びました。前方では
ブレイキーたちがお客と握手を交わしながらサイン業務に勤しむ光景。

順番が回ってきました。
私は持参したレコードジャケット(あの頃はCDなど無く、レコードであった)を
差し出すとブレイキーはうつむいたままスラスラではなく、ノツノツとサインペンを
走らせ署名してくれ、握手を求める私の顔を始めて見上げたその瞬間

「イペイ!」

と叫ぶではありませんか!
彼の凄まじい声圧と、ビックリしたようなギョロ眼と、私の名前を覚えていてくれた、
という感動でこのときも又、瞬間失神状態に陥ったのです。

そして、次の言葉が怖かった!

「お前はここでな〜に〜をしてるんだ〜!!!」

と叫ぶではありませんか。
まるで、生徒を叱責する熱血教師のように。

これには驚きました。

いったい何をいってるのか何のことかが理解出来ず、ただ唖然としていると、
横の通訳の別嬪のお姉さんが言いました。

「イペイさん、お前は友達なのに今日ここへ来る事を何故俺に言わないのか。
知っていれば、俺たちと一緒に居る事が出来るし、チケットもいらないし、第一、
リハーサルでイペイと遊べたらメンバーも楽しかっただろうし、イペイに意見も
聞けたのに。それはそうと、この後のセッションの手はずは出来ているのだろうな!
もう少し仕事をしたら一緒に"何やらハウス"へ行くからイペイはここで待っていろ」

と・・・

もう、私は、感動と嬉しさと今まで生きてこれた感謝とジャズというものに
関わっていた己の運の良さに対する優越感で・・・本当に泣いていました。

さあ今晩、今から始まる「ニューヨークナイト」と「感動のラストナンバー」


本編最終回


「イペイ、神を信じろ!」



をお楽しみに。