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「アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズとの大セッション大会」編
第一回/第二回/第三回/第四回/第五回/最終回

「テナータイタン!リトルジャイアント!ジョニーグリフィンとの出逢い」編
第一回/第二回/第三回/第四回/最終回

「遥かな道、テナー街道」編
第一回/第二回/第三回/第四回/第五回

第三回 「テイク ジ ええ? シンカンセン」
(テナータイタン!リトルジャイアント!ジョニーグリフィンとの出逢い。)
 「こいつ、俺の弟子だ。」

カーティスに私を紹介するグリフィンのなんとも唐突な言葉に、私は唖然として
心の悲鳴を上げました。

しかし私はそんなことよりも、山陽新幹線、山口県の徳山駅のホームで、
目の前でにたにた笑っている二人が、ジャズの生きた歴史そのものである
ジョニーグリフィンとカーティスフラーだということが、まるで奇跡のように
思われて全身の血が逆流するかのような気分で、たたずんでいました。

 するとカーティスはグリフィンを押しのけるように前に出て、先ほどグリフィンが
自己紹介したときのように深々とお辞儀をして握手を求めてきました。

「君はジョニーの弟子ですか、そうかそうか。それは良い師匠を持ったね。
じゃあ君もテンプーラを馬のようにたくさん食べるんだね。キャーキャキャキャ〜」

あの時のカーティスの腹を抱えての馬鹿笑いと、あきれ顔のグリフィンの表情が
生涯忘れ得ぬグレートミュージシャンの肖像画として脳裏に焼きつきました。

きっとこういう写真がアルバムの表紙になって名盤が生まれるのだなあと妙に関心。
カーティスの冗談はとどまることを知らず、まるでラスベガスのショー漫談家のよう!

 グリフィンはというとまるでカーティスの言葉を意に介せず、これまた私に質問を
浴びせかけてくる始末。

私はというと、どちらの話や言葉も一言一句聞き落としては末代までの恥と
ばかりに、全神経を彼らの口元に集中して目を剥きながら、うなづく一方。
 
 そうこうしているうちに新幹線がホームに滑り込んできました。
彼らは当然ながらグリーン車、私は当然ながら自由席。しかし彼らは私の
乗ろうとする車両にいっしょに乗り込んで来るではありませんか。

その後ろにマネージャーらしき白人の別嬪のおねいちゃんとこれまた通訳らしき
別嬪の日本人のおねいちゃん?とは言いがたい別嬪であった(軽い過去形)で
あろうおばちゃん(失礼!)が続いて乗車しました。

するとグリフィンはいち早く空席を見つけ「ガチャン!」と足元のレバーを踏み、
対面座席をこしらえました。おねえちゃん方はしきりにグリーン車への移動を
勧めましたが彼らは「苦しゅうないない」とばかりに「ドッカ」と腰を下ろし、
楽器ケース以外の荷物や土産物をそそくさと棚へ放り上げ、あろうことか
私のかばんまで「上へ置いてやるから」と親切丁寧に放り上げてくれたのです。

 その直後、信じられないことが……

グリフィンは楽器ケースのジッパーを「ジャッ!」と開け、黄金色に輝く彼のテナーを
私に持たせてくれるではないですか!

「なんたる感動!」

どんなプレイヤーでも同じでしょうが、憧れのプレイヤーの楽器に触れるなんざ
あ〜お釈迦さまでも気が・・・いや感動するでしょう!

「ワオ〜」

私の喜びは頂点に達し、声は裏返るはズボンのすそは裏返るは
カッターシャツの襟は裏返るは…そんなことあるわけない。私がその宝物を両手に
掲げ、「このテナーサックスは…」と言いかけるよりも早く、グリフィンのサキソフォン
講義が始まりました。

「俺は今はこのモデルが気に入っていて、これで20本目かそれくらいだ!」

すると横手から例の名漫談家?いやグレートカーティスが

「J(カーティスはグリフィンの事を終始こう呼んでいた)はワイフと同じ数だけ
サックスを持っているんだ、キャ〜キャキャキャ〜」

とうのグリフィンは意に介さず、

「君のサックスは何だい」

「私もこのモデル、フランスセルマーのスーパーアクションです」

「そうか、俺と同じだなあ〜、なぜこのモデルがいいと思ったの?」

「あなたが使っている写真を見たことがあるので。」

「そうか、俺は盗まれないようにここのベル(ラッパの開いた口の周り)に
名前を彫っているんだ。」

「わ〜かっこいい!僕もやってみようかなあ」

するとまた、グレートカーティスが

「Jはワイフの背中にも逃げられないように名前を彫っているのさ
キャ〜キャキャキャ〜」

グリフィンまたもや意に介さず。

「マウスピースを見せてあげよう、これは俺が命の次に大切にしているんだ」

「ワオ〜!オットーリンク!(ジャズテナーサックスマウスピースの定番メーカー)」

「吹いてみな、すばらしいよ」

なんと寛容な人なのでしょう。グリフィンはその大切なマウスピースを私ごときに
吹いてみろと差し出すではありませんか。

 こんな幸運が人生に何回あることか?だいたいサックス奏者というもの、
楽器本体はともかくグリフィンの先述の言葉のように、マウスピースはあまり人に
吹かせたりしないものです。それが「吹いてみろ」と。

グリフィンは言いました。

「俺だって、音楽以外の仕事や、めんどうだったりして楽器に触れられない日も
あるんだ。でも必ずマウスピースには息を入れているし、ほんの数分そうしている
内に勇気がわいてきて練習してしまうんだ。君もそうしたほうがいいよ」

なんたる崇高な偉大なアドバイス!私にとって、どんな素晴らしい教則書よりも
彼の一言の方が心に突き刺さり、

「そうか、私も明日から『マウスピース吹きの鬼』になろう」(何故明日からなのか?)
と一代決心をしました。

人間、精進、不精進(私のように)に関わらず幸運にぶち当たることがあることは私自身が以前、「アートブレイキーとのめぐり合い」のときにも痛感しました。もちろん、
日々の精進は大切でしょうが、凡人には精進自体が苦行。しかし、人は弱いもので
こういった幸運が降り注いでしばらくは精進しようと思い練習嫌いの私でも、
大嫌いな基本練習てなものをしてしまいます。

 感動の中でうつろな気持ちでグリフィンから手渡されたマウスピースを
両手で包むように眺めていると、横からまたもや黒い影がそ〜と忍び寄り

「コーヒー飲む?」

そうグレートカーティスの野太い顔、いや声。
もう一人の神様が私にコーヒーを…。
この人たちはなんという親切で暖かくフレンドリーな「普通のおっさん」なんだろうと。

このときにも数年前出逢ったブレイキーのことを思い出し、類まれなる自分の幸運を
噛み締めてしまいました。そう、あの時ブレイキーが言った

「イペイ、お前はずっとジャズに生きることになるだろう!」

という言葉がまるで神の啓示のようにひしひしと自分の胸からこみ上げてきました。

私は片手にグリフィンのマウスピース、片手にカーティスからの贈り物の熱い熱い
蓋付きのコーヒーを持ってどう動けばよいのか戸惑っていましたら、親切にも
程がある、なんとカーティスがコーヒーの蓋を取ってくれるではありませんか。

私にとっては感謝と敬愛と感動のイングリッシュを彼に

「ベリーサンキュウ!!!」(何たる英語?自分がいやになります)
この際言葉の壁なぞ気にしている場合ではない、気持ちの問題です気持ちの!

 またもや私は一世一代の大苦悩をしました。

「せっかくカーティスが蓋まで取ってくれたコーヒーを先に飲むべきか、先に
グリフィンからすすめられた黄金のマウスピースを咥えるべきか?」

グリフィンのマウスピースにはリード(音を出す為の竹べらのようなもの)が
付いています。リード奏者にとってリードは「命」といっても過言ではありません。
ましてやあのジョニーグリフィンのリード。清潔、不潔などという衛生面なぞ
考えている場合ではなく、(本当は不潔なので良い子のみなさんも悪い子の皆も
絶対?まねをしないで下さい)とは言うものの生涯1回きりのチャンス。

三日三晩寝ずの?昼寝はしての苦悩の結果、選んだ道は・・・・?

第4回  「ちょっと待ったあ〜〜!」
をお楽しみに!